鍼治療の適応症「顔面神経麻痺」

 鍼灸治療が得意とする適応症の一例「顔面神経麻痺」についてご案内します。治療をお考えの方、ご参考にしてください。

顔面神経麻痺

 顔面神経は、顔の表情をつくる筋肉を動かす運動神経です。この神経の麻痺により、主に顔の片側が動かせなくなる病気が顔面神経麻痺です。
 分類としては末梢性麻痺と中枢性麻痺(脳卒中などの後遺症)に分けられ ます。末梢性麻痺には多くの症例があり、それらはベル麻痺・ハント症候群・交通事故などによる外傷性麻痺・先天性麻痺・腫瘍性麻痺・中耳炎性麻痺などに分類されます。
 顔面神経麻痺は、年間人口10万人あたり30~40人、わが国全体で4 万人もが発症し、そのうち6割がベル麻痺、2割がハント症候群です。

顔面神経麻痺の原因と発症メカニズム

 口の中から入ったウイルスは顔面膝神経節(がんめんしつしんけいせつ)に感染して潜んでいます。その後、免疫が低下したり、寒冷やストレスなどの何らかの刺激によってウイルスが再活性化します。このとき神経が炎症を起こし、骨の中で神経が浮腫(むくみ)を起こします。すると、神経は圧迫されて障害が起き、顔面神経麻痺を発症するのです。

*顔面神経は、顔面神経管という細い骨のトンネルの中を通っています。顔面神経管は人体の中で最も狭く、かつ最長の骨性神経管です。顔面神経管には、顔面膝神経節という直角に曲がっているところがあり、この部位の直径は約1mmととても狭くなっています。 

ベル麻痺の多くは単純ヘルペスウイルス1型の膝神経節における再活性化が原因で発症すると考えられています。一方のハント症候群は、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因です。原因は、どちらもウイルスですが、ウイルスのタイプによって、その後の経過は違ってきます。

顔面神経麻痺のさまざまな症状

 ある日突然、目が閉じられない、水を飲むと口からこぼれる、といった症状が出現します。
 麻痺側のまぶたや口の筋肉が動かないため、口は麻痺していない側にひかれて曲がり、麻痺した側からよだれが流れます。水を口に含むと、麻痺した唇の端から水が漏れてしまいます。食事では麻痺した頬の内側に食物がたまってしまいます。
 目を閉じようとすると黒目が上まぶたに隠れ、白目だけになります。洗顔では、目が閉じられないため、石鹸が目に入ってしまいます。
 また、顔面神経麻痺が長く続くと、病的共同運動(口を動かした時に眼が閉じてしまうなど)、ワニの涙(食事をすると涙が出る)、麻痺側の顔面に筋けいれんが出現するなどの特有な症状がみられることがあります。
 なかでも病的共同運動は、意図しないで起きる異常な顔面運動であり、後遺症のうち最も高頻度で最も不快な症状といえます。再生してきた顔面神経が、もともと支配していた表情筋とは違う表情筋に迷入してしまうことがあります。そのため、異常な顔面運動がおきるのです。病的共同運動は一度発症すると、治癒させることが難しいとされてきました。
 顔面神経麻痺は自然に回復する場合もありますが、診断・治療が遅れた場合や重度の場合は、顔面のこわばり、筋力低下、病的共同運動などの後遺症が残ることがあります。

顔面神経麻痺の治療

 治療は、急性期と慢性期に分けられます。急性期には薬物療法が主体となります。ステロイドと抗ウイルス薬を投与して、神経変性の原因となっているウイルスの活動を抑え、浮腫による神経圧迫を除いて、神経変性の進行を防止することが目的となります。麻痺の程度を経時的に評価して予後不良が疑われる場合は、顔面神経減荷術が提案されます。また、後遺症を予防するためのリハビリテーションも重要です。

※顔面神経減荷術(がんめんしんけいげんかじゅつ)とは、神経が通っている骨を削り、神経の鞘を切り開いて減圧する手術です。神経絞扼による圧迫を取り除くことを減圧といいます。
 慢性期における治療は、神経再生に主眼が置かれます。高度麻痺例では発症後3~4ヶ月から回復が始まりますが、時間とともに病的共同運動や顔面拘縮などの後遺症が顕著となります。ボツリヌス療法や後遺症軽減のためのリハビリテーションが行われます。

 ※ボツリヌス療法とは、ボツリヌス菌によって作られる毒素(ボツリヌストキシン)を注射して、緊張している筋肉を麻痺させ、筋肉の緊張によっておこる眼瞼けいれんや片側顔面けいれんの症状を改善する治療方法です。
 ベル麻痺もハント症候群も処置が早ければ早いほど経過がよくなります。そのため、麻痺が発症したら、すぐに受診しましょう。治療期間はケースバイケースですが、早めに治療を受ければ、早く治る可能性が高くなります。

 顔面神経麻痺に対して、鍼治療は効果があります。薬物療法と併用していきながら、早期に鍼治療を開始し、顔面の筋肉の適切なリハビリを行うことが何より効果的です。特にベル麻痺に関しては、鍼治療による改善例が報告されています。東洋医学研究所®グループにおける、顔面 神経麻痺治療の実績は近年増えてきており、治る確率も上がっています。


東洋医学研究所®グループ 井島鍼灸院の研究報告
・第57回全日本鍼灸学会学術大会(京都大会)
 「末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の1症例」
・第59回全日本鍼灸学会学術大会(大阪大会)
 「ラムゼイハント症候群に対する鍼治療の1症例」
・第34回(公社)全日本鍼灸学会 中部支部学術集会
 「末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の1症例
  発症後約3年半経過した後に鍼治療を開始したベル麻痺の症例-」

顔面神経麻痺を発症した方へのアドバイス

顔面神経麻痺を発症する背景のひとつには、疲れやストレスにより免疫力が低下していることが考えられます。そのため、過度のストレスを避け、十分な休養と睡眠をとることが必要です。
 顔面神経麻痺は急に顔に症状が出るためにショックを受けられる方も多く、心理的に暗くなりがちです。顔を見られないように外出を控えたり、正常な発音がしにくいため会話が少なくなったりする方も多くいらっしゃいます。症状が改善する可能性は十分にあります。なるべく明るく活動的な生活を続けるようにしてください。
 また、寒風や冷房などで顔を冷やさないようにすることも大切です。顔のリハビリテーションは、朝晩1日2回、1回5分程度と短めに行うとよいでしょう。訓練の内容は、鏡を見ながらの百面相や、アイウエオの発声、眼の開閉などです。ただし、やり過ぎたり、無理に動かしたりはしないように注意してください。
 当院では、治療実績を基に、顔面神経麻痺に対して全身の調整と、麻痺の改善を目的とした鍼治療を行っています。さらに、それぞれの症状に合わせた表情筋のリハビリや生活習慣の指導を実施しています。
 顔面神経麻痺が治る確率は100%とは言い切れませんが、治療の実績は近年増えてきており、治る確率も上がっています。早めに治療を受ければ早く治る可能性が高まります。ぜひ、早期に鍼治療を受けることをおすすめします。また、発症後の年数が経過していても回復される方がみえます。是非、一度ご相談ください。
 顔面神経麻痺には疲労や加齢が影響します。再発する場合もありますので、鍼治療によって発症しにくい身体に整えておくという予防的な考え方も大切です。

 


■たかやま鍼灸院(東洋医学研究所®グループ)
■院長/高山加奈子
■住所/浜松市浜北区貴布祢3000 なゆた・浜北1F
■駐車場/「なゆた・浜北」地下駐車場(2時間無料)をご利用下さい。
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